ML論文ななめ読み

malignant lymphoma関連の論文を中心に、適当に斜め読みしています。twitterでも関係ない医療ネタを時々つぶやいています(@lymphoma17)

抗PD-1抗体とデブ

www.ncbi.nlm.nih.gov

これは論文と言うより新しい知見のまとめ的な記事です。freeなんで、リンクからたどれば誰でも全文を読めますが、なんでだか分からないんだけど、肥満の患者は抗PD-1抗体治療が良く効くよってお話。

肥満の定義はBMI 30以上のことが多いんだけど、医学的には肥満があると良いことはほぼないです。例えば、外科系だと脂肪層で手が入りにくくなるから手術創は大きくなるし(腹腔鏡手術ならあまり変わらないのかな?)、内科系だと心血管系のトラブルを起こしやすくなります。血液内科に関するところでは、化学療法のお薬は体表面積で計算するものが多いのですが、あまりにもBMIが高くなってくると調整が必要になります。何故かというと、肥満体型と普通の体型の人で、体の組成が違うから。薬剤には水溶性と脂溶性の側面があって、脂肪ばっかり増えてしまうと、どちらも予想された血中濃度ではなくなり、主作用や副作用が予想されたものからずれることがあります。特にUSAではウルトラデブが多いので、主として造血幹細胞移植の時は薬剤調整が必要になります。詳細は、コレとかコレとか参照。

ちょっとずれちゃいましたが、本文に戻ると、肥満は炎症性サイトカインがじわじわ出て、慢性的に弱い炎症が引き続いているという状態と言われています。同じような状態が加齢によっても引き起こされるのですが、自然免疫が弱く活性化されて、逆に獲得免疫は抑えがちになります。結果として、感染にかかりやすくなったり、ワクチンが効きにくくなったりします。また、そういう体内状況を反映して、腫瘍の発生や進行を促進するとされ、大体の癌腫で悪い予後因子となります。

話は変わって、近年、癌の免疫治療が台頭してきて、特にPD-1/CTLA-4関連が先行しており、国内だとオプジーボやキイトルーダが既に保険承認されています。CAR-T療法ももうすぐという噂ですよね。ニュースではこれで全てが解決するような画期的な治療として報道されていますが、効かない~一時的な効果の患者もいるし、副作用も結構大変です。どんな患者に効果があるのか、またどんな患者に副作用が少ないのかは、まだよく分かっていません。この前の投稿ではCAR-T療法の予後因子を読みましたけど、まだまだこれからの分野です。

CAR-T療法では肥満が副作用を増強してしまうという論文も出ていますが、PD-1/PD-L1ではどうも逆のようなのです。肥満モデルマウスの実験では、腫瘍増殖も転移も肥満モデルマウスの方が早かったのですが、抗PD-1抗体の抗腫瘍効果は肥満モデルマウスの方が良かったのです。しかも、だからといって、副作用は普通のマウスと比べて悪化したわけではありません。これは人でも確認されていて、様々な腫瘍でPFSもOSも改善していて、一方で副作用の増加を認めていません。肥満自体は腫瘍が増殖しやすい環境であることを考えると、抗PD-1抗体の効果は肥満の方が明らかに強いのです。

肥満の何が良いのかは今のところよく分かっていません。ご飯の質なのか、サイトカインの何かなのか、代謝の問題なのか…。でも、今後、こういう情報がベースとなって明らかになっていくのだと思います。

それにしても、BMI 30って170cmの人だと90kg近くか…。なんにしても抗PD-1抗体をやる率は高くないので、積極的にそのBMIは目指さない方が良いと思いますw